カルテ11 やっぱり彼女にバレた
彼女がいる身でありながら、他の女性ともメールを続けていた方の顛末です。 それが原因で、こちらのプライバシーに踏み込まれても仕方がないような状況になってしまう場面もあるようです。
>> 前回の処方はこちら
>> 前々回の処方はこちら
患者(中谷さん 26歳 製薬会社勤務)には大学時代から付き合っている彼女がいる。
彼女は鋭い面もあるが、基本的には患者に対して寛容な態度で接してくれる。
そんな彼女との恋愛関係に不満はない・・・、はずであった。
しかし、長い付き合いともなると、その関係に新鮮味を感じられなくもなるであろう。
最近、患者は彼女に内緒でとある女性とメールのやり取りをしている。
相手はたまたまアクセスした出会い系サイトで知り合った女性で、メールのやり取りをするだけに留まらず、過去に数回ではあるがその女性と会って食事を共にするほどまでに二人の仲は進展していた。
彼女から立て続けに浮気を察知されるというと憂き目に合い、精神的にかなり参っていた患者。 その相手との関係は、患者にとって疲れきった心の支えのようなモノになりつつあった。
そんな微妙なバランスで成り立っていた患者の日常を打ち砕く事態がついに発生する。
その日、患者は彼女の様子が明らかにおかしいことに気付く。
態度がやけにトゲトゲしいのである。
二人の間に漂う空気は静寂そのもので、話しかけることすらままならない。 そんな気マズイ雰囲気の中、沈黙を打ち破るように患者の携帯がコールし着信を告げる。
『こないだ会った子からのメールか・・・?』
患者は彼女がいる前ではあるが、平然とメールの内容を確認し返信を終える。
何度も同じ過ちは犯さない。患者は学習していた。
動揺せず何事もなかったように振舞ったし、個別の着信音も設定していなかった。
完璧だ、なんの問題も無い。
だが、その時である。
それまで一言も発することなくそっぽを向いて座っていた彼女が、患者のメール返信が終わるのを待ち構えていたかのようにこう言い放ったのである。
デートのお誘いですか?
楽しそうでいいですよね。
『ビクっ!』
突然発せられた彼女の一言。
その誰に向けたモノとも取れない言葉は、患者に核爆弾クラスの衝撃を与える。
『今、何を言ったんだ・・・こいつは・・』
患者は思わず体を硬直させたまま彼女に視線を向ける。
えっ?
なに、どっかデート行きたいの・・・?
ひとまず『聞き間違えたフリ』を装う。
そして、しばらくして、
いや“しばらく”と言えるほど短い時間であったかは定かでない。
やっとのことで患者の思考回路が動きだす。
『なぜ別の子と会ったのがバレたんだ・・?』
煙が出そうなほど高速回転する患者の思考回路。
先の言動に不自然な点は無かったはずだ。
「なぜだ、なぜ覚られた・・・。」 バレた原因が全く思いつかない患者に対し、
彼女は追い討ちとも取れる一言を投げかける。
六本木ヒルズ、私も行きたいな・・・
スイマセン、行っちゃいました・・・。
それはまさに先日メールの子と食事をした場所だった。
しかし、その事だけは彼女に悟られてはならない。
必死に言い逃れる道を探す患者。
しかし、彼女の次の一言によって終止符が打たれるのであった。
言い訳しなくてもいいよ・・・
メールみて全部知ってるんだから!
おい、ふざけんなよ?!
切羽詰った挙句、逆ギレ。 最悪である。
確かに彼女といるとき、自分の携帯を置いたままその場を離れるという事はザラであった。 いつ彼女がメールの内容をチェックしていてもおかしくは無い。
流石に今回は状況が状況である。
「はー、なんなんだよコイツは・・・」
彼女の行動に対する怒りと共に、患者は自分の無防備さも痛感したのであった。
恋人という間柄では相手が自分のプライバシーに立ち入ってくる可能性もある、ということを多少は覚悟しなければならない。
しかし、「ココには立ち入って欲しくない」という部分になんの注意も払わず、相手の良識的な部分に頼り切ってしまうと「自己責任だ」と言われかねない場面もある。
自分が相手に対してオープンでも問題ない箇所と、そうではない箇所をしっかりと分けて接したい。
あれほど「浮気は良くない」と言っておいたにもかかわらず、あなたという人は・・・
本来ならば、これ以上の処方は出せないところなのですが・・。
確かに、『プライバシーが詰まった携帯メモリを見る』という彼女の行為を、
良識的だったと言うことは出来ません。
しかし、その管理を怠ったあなたに非がないと言い切れないのもまた事実です。
メモリを見られた相手が彼女だったから良かったものの、これが全くの他人だったとすると、あなたの個人情報が悪用される危険性まで出てきます。
とはいっても、毎回彼女から離れる時に携帯を持ち歩くのは逆に不自然でもあります。
しかし、そこはあなたのちょっとした注意でいくらでもセキュリティーを確保する事が可能だったはずです。
あなたは管理能力がかなり欠如しているようです。